ピアノとの付き合い方


昨日 とっても古いピアノのお話を書きました。    バブルが弾けてから ピアノ調律の仕事は  他の お仕事同様に 急激に 仕事量が減ってしまいました。   多少 狂っていても 我慢されて弾き続けられている方も在りますし  ピアノ を弾く事を辞めてしまわれた方もあって ピアノを処分された方々も 多くありました。   更に 少子化を辿る一方でもありますから 販売台数も減っています。    山梨県や長野県の人口数が、東京近郊と比べると 少ないこともあって  自動的にピアノの台数が少ないこともありますが、 お部屋のスペースの点では ゆとりがありますから  グランドピアノを弾かれていらっしゃる方が 少なくありません。   そして ご自分が弾かれていた ピアノ をそのままにしておいた事で  最近になって お子さんヘと 引継いで下さる ご家族が 増えています。    
慌てて仕事をこなす必要性も 昔のようには迫られなくなっていますので  時間で割り切るような仕事のやり方ではなく  お客様との 会話 の時間が増えたことも手伝って 1台、1台に 時間を掛けながら  確実に 仕事を進める事が出来るようになりましたし その様な事を必要としている ピアノ との出逢いも 増えています。   時間を掛ければ 良い と言うものでもありませんが、 仕事量が多くて 非常に忙しかった頃は 「やりたい!」 と思う 一手間の作業さえしている時間がありませんでした。   その次に伺った時に その作業を優先してやるようにはしていましたが、 一手間 が掛けられなかった時代の 心残り を 今はしないように  作業内容も お客様にお話をして  ピアノの中にも 興味を持って頂きながら 仕事を進めています。
調律の依頼を下さったお客様から伺ったお話で 『 以前に はじめて来たのに 調律の作業も始める前に 「 もう古いので 新しいものに! 」 と 買い替えを迫る 調律師が来てしまった… 』 と言うお話を伺うことが、あります。 長年 愛用していた ピアノに対して  初対面とは言え 専門家として招き入れた 調律師 から いきなりその様な事を言われれば、 ショックを受けてしまわれるでしょう。


   
実際に 50年近く共に時間を過してきた ピアノ に対して その様に言われてしまったことで  弾く事を辞められてしまったお客様の御宅へ 先日伺うチャンスがありました。  そのピアノは 丁度 昨日のブログに書いたピアノと同じ 【 APOLLO 】 のアップライトだったのですが、 亡くなられた 前の社長が、筆で 達筆なサインを鍵盤に書き込まれて ハンコまで押されていた楽器でした。  お客様に そのサインを見て頂きながら 遊び心を持たれていたユニークな社長さんは 社員達からも愛されていて  学生時代に お目に掛かった時の事ですが、とても素敵な心意気の方だったことをお話しました。   『 このピアノ… まだまだ弾けるのよね…? 』 と 嬉しそうに微笑みながら 呟かれた事が 印象的でした。     
今から 30年 40年くらい前に それ以前に作られている ピアノ 達の多くには 特に 職人さんたちの 《 心 》 が、宿っています。  勿論 新品のピアノとは 違います。   だからこそ 出せる 音 が、在ります。  その時代その時代の 個性も音の響きに 沢山のエッセンスを加えています。  そのことに気がつく前に 世界中で最もピアノを早く買い換える国民が多い国のトップは 日本 だと 感じます。   裕福である事とは違って 薦められるがままに ステイタス としての姿を感じることもあります。   楽器の使い方にもよりますが、 「本当に買い換えるべきなのか!?」 を 決められるのは お客様の意思なので  私たちは 必要と思われる 現在のピアノのコンディションや 将来的なことも含めて お話をさせて頂きますし  その上で出来る限りの対応が出来る様にして  楽器をそのままメンテナンスさせて頂いたり 買い替えや 移動などの お手伝いをさせて頂くのです。
お客様のご希望にもよりますが、 私は 多くの場合に 中古のピアノを 一緒に確かめながら 選ぶ事をしています。 勿論、 中古の ピアノ の場合には 弾き方や 環境にも大きな影響を受けますが、 修理の作業が発生する事が有りますので  しかしながら その修理は 一度作業をすると  当分の間は調整だけで済む事も お伝えしています。   
新品のピアノを選ぶ場合でも 楽器の個性を体感して頂きつつ 沢山の会話をしながら  新品のピアノは 数年を掛けて 育てる必要が有ることをお話して  最終的には ご自分でゆっくりと指弾をして頂いたり  未だ弾けない方の場合には 私が出来る範囲ではありますが、色々な弾き方をしつつ 音を聴いて頂いて  その数年後の 未来の音もイメージして頂きながら  一番 お客様の心に響いてくる楽器を選んで頂いています。
楽器は 生き物 です。