薪小屋のシュベスター


寒さの厳しい 長かった冬も過ぎて やっと我が家の庭先でも  色とりどりの花が咲き始めました。
昨年、秋のホームコンサートを開かれたお客様に 『 こんな風な場所に ピアノをもう1台置いてみたのですが〜 』と 広いお庭に建てられている 薪ストーブ用の 薪小屋にある 【 シュベスター 】 を見せて頂きました。
今年になって 未だ暖かくならないうちに 『 野外ホームコンサートを開こうと思いますので シュベスターの調律をお願いします 』と お電話を頂きました。  

実に寒い冬でしたので 暖かくなるのをずっと待って ピアノの様子を見に伺いました。 小動物が、ピアノの中に入り込んで 部品を傷めてしまって居たり 寒さの為に ミュージックワイヤーが収縮してしまい 断線してしまっている等の修理を必要とすることも 頭の中に入れながら 点検していくと 大きな修理を必要とする様子も無くて 安心しました。 しかしながら様々な条件が重なって ピアノの置かれている環境が大きく変わっていたので 音の高さを含めて 曲を弾く事には困難な状態の狂い方をしていましたので 《 下律 》と言う 制度の高い調律をする前の 大きな狂いを早く安定させるための いわゆる、下書きの様な作業調律を 経験的に 大げさに数回繰り返して 本番の日には、美しく響くように 独特の調理をしました。 下律の作業も 狂うことを計算して行ってはいますが、思っていたよりも 落ち着きの良いコンディションのピアノでしたので 1週間ほど後の本番前にどの程度まで 変化をするのか? 様子を見る事にしました。

ホームコンサートの前日に伺って 先ず、どのくらいの変化が起きているのか?を確かめるために弾いてみますと 予想していたほどの大きな狂いは無くて 直ぐに 内部の点検を済度しながら 掃除をして 鍵盤を弾いた時から音が鳴るまでの一連の動きが、スムーズに動くように 沢山ある支点の動きをチェックして 調整をしたり 錆を落とす作業を進めました。  そして 昨年秋に 演奏に来られた ピアニストの矢崎さんと ヴァイオリニストの松田さんがいらっしゃると伺ったので お二人の事をイメージしながら 調律をして 音のバラつきや 発音をよくするための 整音(ヴォイシング)をしました。

暖房器具のストーブの薪ですが、未だ寒い頃から 春の野外コンサートに向けて 都会では考えられない様な 素敵なディスプレイとなる様に 小屋の中へと積み上げられて 更には 季節の花や 野ブドウのみずみずしい蔓が、飾られ 急に暖かくなったことで木々の葉が、薪小屋を覆う様に広がって 森の中のホールへと 姿を変えました。 


山桜の花も満開になって ベートーベンのスプリング・ソナタから 花弁が雪の様に舞い散る中で コンサートは始まりました。  オーケストラや 歌曲として書かれた曲も ヴァイオリンとピアノのデュオ曲として編曲された 普段はあまり聴くことが出来ない 素敵な曲が続きました。

デュオ・コンサートの曲を選曲してこられていましたが、『 ピアノのソロの曲を弾きたいと思います 』と ショパンの名曲も ご披露くださいました。
長い間、冬眠をしていたピアノなので どこまで言う事を聞いてくれるのか? 不安はありましたが、 調律の様々な作業を続けながら 自分でも弾いて確認をして もうちょっと!と思う一手間を少しずつ積み上げた事で pp(ピアニッシモ)も ちょっとドキドキしながら 「そこまで pp を出してくれるなんて!」と 弾き込み作業の少ない完璧な状態ではないながらも シュベスターのその時の最高の響きを お二人によって 引き出して頂きました。

日頃は ひっそりと薪小屋の中で 眠っている シュベスター ですが、演奏家の方々と共に輝いて コンサートに集われた皆さんの前で デビューすることが出来ました。

コンサートの後には、皆さんとご一緒させて頂いて バーベキューをご馳走になりました。  皆さま、有難うございました。
眠りについていたピアノが、たくさんの人の前で奏でられて 再び響きだしてくれることは とても嬉しい事です。
素敵な仕事に携わらせて頂けましたことに 感謝しています。 有難うございました。