仁和寺での出逢いに感謝

昨日に続いて 14日の朝のお話の続きです。
「水掛不動尊」を後にして クローン技術も生かされている「御室桜」の並木へと進みました。  青々と繁った桜を慕えて「観音堂」がありました。  1640年以降に建立されたものです。  

この「観音堂」は 滅多に公開されることが無いので 余り人が立ち寄る場所ではない様子でしたが、 通り過ぎようとしたらば 電気配線のコードが石畳に 丁寧にテープで固定された状態で それを跨ぎながら 観音堂を見上げると その中へとコードが伸びています。   偶々 見えた太い柱には 見事な天人・天女のような絵があるのを見つけました。  更に覗き込むと 色鮮やかな様々な多くの木彫が有ることが分かりましたが、 晴天の陽射しに慣れた目では 薄暗いお堂の中は 良く分かりませんでした。   そこで 正面に回って見ると 何やら ロケ中!? と 思われる作業がされていましたが、 ドラマや映画のロケとは 全く違った現場の様子です。   そして指揮官は 外国の方!?
好奇心から 『ロケ中ですか?』と声を掛けてしまいました。  『ロケはロケだけど データを取っているところです。』との事でした。   『 3D で 処理して データベース化する為の 調査中です。』と ジェスチャーを加えて教えてくださった先生は イラン出身の教授でした。   とても気さくな方で 既に様々な遺産のデータ収集の為に 世界に調査に行かれているそうです。   お忙しい作業の途中だったのにも拘らず、 沢山のお話を聞かせて下さいました。  中へと立ち入る事は出来ませんが、 段々と中を覗いているうちに 目が慣れて来て 水掛不動尊で行き会った大学生2人も加わって スペシャル講演会となりました。   中央の金箔が貼られた千手観音の左右には 30体を超える木彫が並んでいます。   非常に不思議なデザインの木彫で 様々な宗教が混ざり合っているかのようにも思えるものでした。  前の日までには その1体、1体も 細かくデータを取られたそうですが、既に 仏像移動の専門家の手によって元の状態に戻されたそうです。  仏像を移動してみたことで 多くの情報が収集できたそうです。  カビの専門家や 20年ほど積もった地層のような埃の分析をされる方々もいらっしゃるそうです。   そして 教授の興味を引かれたものの1つには 仏像の造形もあった様ですが、 その回りに描かれてあった「壁画」だそうです。  一部は 見ることが出来ましたが、 後に隠れてしまった絵画が、色彩も豊かなままの状態で残っていたそうで 見事だったそうです。
千手観音の鮮やかな金箔の話から 金閣寺の修復に携った山梨県内の知人のことや その時に使用された金箔の産地の金沢に息子がいる事をお話すると 金箔の色のデータベースのお話や 更には『絵、やるでしょう?』と訪ねて下さって 私の大好きな 『ラピスラズリの顔料も使われてるよ!』と教えて下さいました。
『画像処理で 3D と言っても 2D の2次元の中での遠近法によるバーチャルな物だから どの様に処理するかのセンスの問題も 大きいのではないでしょうか? 画面の世界と レスリング経験者の息子は違いを感じながら 設計している様子です。』と 息子の話し序でに 画面上の設計や 強度計算と現実の違いなどについての話題にも触れると 『違うこと いっぱい有るでしょう〜』と笑っていらっしゃいました。   後から気がついたのですが、 教授の母国の国技は レスリングです。  全く道具を使わないレスリングをご存知の方だから もっと時間にゆとりがあれば 沢山のお話を伺ってみたかったです。
教授が、壁画のお話をしてくださりながら 『折角 ここで会えたのだから 是非、見て行って下さいね。 ここの壁画が影響を与えたと思われる 狩野派の絵画や 特に板絵は 木目と人の手によって生み出された傑作だから!』と 日本の古い職人達の技を高く評価されていらっしゃいました。

「御殿」の「勅使門」です。  明治時代に焼失してしまったものを 明治末期に再建したものだそうですが、 その細かな様々な職人の技の集結と バランスは 物づくりが好きな人は 目を奪われること 間違いの無い作品です。   天皇家のみが 使用を許されている 門 なのだそうです。

「勅使門」の内側のお庭です。  向こう側には 左近の桜 右近の橘 が、植えられています。   中央の木が 左近の桜 です。

こちら側へと回って見ると 左近と 右近を従えて 庭を楽しめます。  欄干なども とても贅沢な作りで 曲木ではなく  厚い板から 1本1本を削り出して 曲を作り出しています。  我が家の玄関に有る 屋根を支える「頬杖」も同じ作りです。   木工の経験者や 建築に興味のある方ならば 直ぐに気が付きますが、昔の贅沢な職人技です。

順番が入替っていますが、 左近の桜の先を曲ると 最も保存状態の良い 板に描かれた絵がありました。  梅の花が見事に咲き誇っていました。    丁度 中学生を連れて通りかかったタクシーの運転手さんの解説では 『昔のお金持ちの贅沢ね。 紙に描かないで 直接、板に描かせちゃっていてね〜』と 紙だと雨風が吹き込んだら直ぐに傷んでしまうような場所にも 絵を描かせていたのですね。

この絵が、長年 眺め続けている庭です。  女の子達を案内していた別のタクシーの運転手さんが、 『写真を見て 想い出してね。』と優しく声を掛けながら 一人ひとりのデジカメに この庭をバックにした想い出を 丁寧に写していました。

ぐるりと建物の中を散策した様子は 後日と言う事で 板に描かれた絵 の特集です。
こちらは それぞれに違ったモチーフで描かれた 花籠です。  この数十年の内で 既に 随分と色が抜けてしまったそうですが、  それでも 板特有の色の変化も合わさって 四季を感じる花々でした。

桜と橘 ヘと向かって歩いていくと 素敵なガラスの電気の笠が下げられている廊下です。  そして その向こうには 私が一番心惹かれた板の絵がありました。

宇多天皇始め 歴代の多くの方々が、 春夏秋冬を五感で感じながら  庭の変化と共に 建物の造りを楽しまれていたのでしょう。  400年以上もの歴史が育んだ場所で 色々な季節の風の音を思ってみました。