TOKYO生まれの「シュベスター」と「クロパトキンのピアノ」と〜

皆さま、大変ご無沙汰をいたしております。 このブログを初めて 今日で 425日目の更新です。  はじめた頃は、日々の小さな発見や 思った事などを「ちょっとずつ書いてみよう!」と思ったので 《 調律師のつぶやき♪ 》 と タイトルを付けたのに 友人たちから『 呟きじゃなくて しっかり語ってるじゃない〜! 』 と笑われるこの頃です。  ブログの管理でアクセス状況などを見てみると 色々なワードが、切っ掛けとなって ブログへお立ち寄り下さっている方々がいらっしゃいます。  以外にも 毎日のようにアクセスして下さっている 諸外国在住の皆さまもいらっしゃるので 日本の中でもユニークな土地柄の季節感もお伝えしたいと 思って居ます。
皆さま、有難うございます。  感謝しています。 

先月 東京のお客様のお宅へ伺った時には 既に 熟して真っ赤な実が沢山ついていた ジューンベリー が、我が家の庭でも 熟し始め、 鳥たちが食べにやってきています。  完熟すると洋酒の様な風味の特徴的な味わいが楽しめる ジューンベリー ですが、 木が大きくなり過ぎてしまって この数年は 木の実の色と 鳥たちの様子を眺めて楽しんでいます。 
今年は、寒くて長い冬が続き やっと春が来たかな!?と思ったら 急に寒暖の差が激しい初夏となりました。  テレビの天気予報でも有名な 暑い熊谷(埼玉県)と好い勝負の 甲府は、学生服が冬服の内に 30℃近くまで気温が上がる事もあるかと思えば、20℃あれば『暖かいね…』と 感じる程まで 気温が下がる事があります。
我が家は オリンピック選手や 馬たちの 高地トレーニングにもなるような 標高900m程の高さに在りますので 甲府とは植物の生育が、1か月ほど遅れます。  そんな気候風土の土地を日常的に動き回っているので 特に不安定な天候の年の季節の変わり目には 体調を崩す人が少なくないです。
先日は 蟻が、これまで以上に高い場所へと移動して 地上から4m程の高さの網戸のサンに中に 巣を作り始めました。  異常な降水量となる夏がくるであろうと思いながら お引越しをして頂いたのですが、その数日後に 早くも台風4号が、やってきて 大雨洪水警報が発令されました。
一応は 色々な出来事や 発見の中から 音楽や音に関わる事を書いていこうと思って居る私のブログですが、余談の方が長いのは 昨日今日に始まったことではありませんので 今後とも宜しくお願い致します。 

そんなこんなのブログではありますが、 先日 『 娘が、「古いシュベスターの調律をやって下さる方がいらっしゃるから」と 貴女の住所と電話番号を調べてくれて それでお電話をしたのですが〜 』と お客様からお電話を頂きました。 『最後の調律から 一体、どのくらい空いて仕舞っているか、判らないほど 調律して頂いてなくて そんなピアノでも大丈夫でしょうか? 』と ご心配されていらしたので  『 古いシュベスターは、本当に 余程の事が無い限り、はじめは不安定ですが、ちゃんと元の状態へと 自分から戻ろうとしてくれるので 大丈夫だと思います。 東京で作られていた頃のピアノでしょうね。 お掃除もしながら 点検をして 沢山お時間を頂ける日に お伺いをさせて頂きたいと思います。 調律する日が、楽しみです。』と お約束をしました。  

シュベスターhttp://www.piano-it.net/schwester/は、現在では 静岡県磐田市で作られていますが、 昭和53年に移転するまでは 1929年から 東京で作られていました。 学生時代に 師匠に連れられて 磐田のシュベスターの工場へお邪魔したことがありますが、 小さな作業場で 黙々と作業する職人さん達の姿が印象的で その中には学校の先輩の姿もありました。 
ピアノと言えば 浜松や磐田を思われる方が多い事と思いますが、 町工場の多い東京の蒲田界隈に 木工所なども多かった(正しくは、江戸時代から考えると「多くあったから」だと思います。)こともあって 東京で作られていたブランドが数多くありました。  私の師匠たちも その様な東京の工場でのピアノ作りに関わった人たちがあります。  その昔、明治の時代に YAMAHAよりも早くからピアノを作り始めていた 西川、松本は 部品の調達や洋楽を持ち込んだ外人居住区などの関係もあって 築地や横浜に工場を構えていました。  社長はじめ 従業員の多くも キリスト教の教会へもミサや礼拝へ通われていたそうです。  シュベスターの 2代目社長は 築地が、創立の地と言われているミッションスクールの立教大学のご出身です。

さて、お客様のお宅へ伺ってみますと とても大きな屋根の古い日本家屋のお宅でしたが、そのお宅の家具や調度品は 和洋折衷したモダンな香り漂う素敵なお宅で その中に木目を生かした作りのシュベスターは 静かにありました。  ピアノの上には 小さな古い讃美歌集が2冊重ねて置かれてあったので 『 失礼ですが、キリスト教の信者さんでしょうか? 』と訊ねると お見かけした以上に 実年齢がご高齢だった奥様は 東京のミッションスクールのご出身でした。  東京には 実に多くの私学があるので 校名を言われても解からない事は少くなくはないのですが、 古くからあるミッションスクールは ミッション系の出身者であれば、何かしらのご縁があるものです。 色々なお話が、飛び出してきました。 先日 出席した日本ピアノ調律師協会関東支部総会でも 恐れ多くて近付くことが出来ない大先輩が、声を掛けて下さって 『 俺ね、大学出てるんだよ〜♪ 』と 世代的には 十代で奉公に出て この業界に入った人たちもいらっしゃる世代ですが、ミッションスクールの出身でしたので そこから話が膨らんで 立ち話から『 何に花が咲いてるの?』と 大先輩方が集まってこられて座談会になりました。  この習性は 関西の方々には薄いようですが、関東では 体育会系でも 六大学や関東学生の縦横の繋がりが、複雑にあって 私自身は 高卒ながらも 両親や主人の母校のOB・OGがいらっしゃると 話題が尽きません。  その様に ミッションスクールの繋がりも 目に見えない沢山の糸が張り巡らされているものです。 

今回出会った シュベスターは 昭和56年に最後の調律をしたまま 時間が過ぎていました。 調律カードには、今は亡き有名な調律師の名前が書かれていました。  当時、使われていた部品のフェルトの質の高さや 調律師の仕事の名残を感じながら 時間と共について仕舞ったクセなどを整えながら 整音までには至ることが出来ませんでしたが、整調・調律をしていくと 笑いが込上げてくる位に 狂ってしまっている音程を 直ぐに狂う分だけの変化を経験的な計算をしつつ 作業をしていくと 意外とすんなりと いう事を聞くのですが、 シュベスター特有の狂い方をちゃんとしてくれるので 『とっても狂っていたのに 大雑把にでも整ってくると ちゃんとシュベスターの表情をするんだね〜♪』と 思わず、ピアノに話しかけていました。
『 30年以上も調律していなかったのだから 適当にして 狂ったままでいいから また改めていらして下さっても好いのよ。』と 作業の内容を案じて お気遣い下さるお客様に 『 長年眠っていたのに 目を覚ました途端に 自分がシュベスターだと分かっているんですよ。 折角なので もう少しお時間を下さい。』と お願いをしました。
台風が過ぎ去って フェーン現象でとても暑くなったので 作業の合間合間に お茶を入れて下さって その度に 『 あら!ご存じなの?』 とか、『もしかして ご存知ではないですか?』と 話題も絶えず、その中で 『 もしかして貴方ならご存じじゃない、クロパトキンのピアノのこと? 』と話題が提示された時には 『 金沢ですか? 水戸ですか? もしかして北海道の〜?』と尋ねると 『あら、やっぱりご存じだったのね、北海道の家庭学校のピアノ!』と 思いがけないお話でした。 『ご存知の方が少ない中ではありますが、「ステッセルのピアノ」http://www.kanazawa-gu.ac.jp/houjin/modules/shisetsu/index.php?content_id=1 と言う呼び方をする方が多いのに 「クロパトキン」の名前で呼ばれるならば 家庭学校だと思いました!』と 日露戦争の話題へと至りました。

ステッセルのピアノ (文春文庫)

ステッセルのピアノ (文春文庫)

このブログでは、もう何度もご紹介してきている1冊ですが、『クロパトキンのピアノ』と言う呼び方をされた方との出会いは初めてでした。
http://www.justmystage.com/home/ayame1234/
そして この家庭学校の話題へ至る方との出会いも初めてでした。  早くに亡くなられたお父様の親友の方が、創立された方とのことで 『クロパトキンのピアノの演奏会へ行った事があるの。』とお話をして下さいました。  『山梨にも 家庭学校が、あるんです。』とお伝えすると 『 その方から話を聞いて どこにあるのかな?と思っていたけれど そんな場所にあったのね…』と 話題が尽きず、『こんなに昔の話をたくさんしたのは 初めてなのよ。 息子にもしてあげなきゃいけないわね。』と微笑まれました。そして『 お友達の御嬢さんが書かれた本なの。 好かったら差し上げるわ。 貴女なら読んでくれそうだから。』と 読み掛けの1冊の本を手渡して下さいました。 目次を開くと 会話と並行するかのような タイムリーな内容に驚きつつ 有難く頂きました。


季節外れの クンシランが咲き始めました。  もう直ぐ 同様に季節外れのシンビジュームが咲き始めそうです。