眠っていたグランドピアノ【ディアパソン】は昭和46年生まれ♪



毎年 8月の第1週目の週末は 弦楽指導者教会 の 夏合宿 が行われます。  以前は 長野県の 松本ナンバー 地区で 行われていましたが、 交通の便などのこともあって 数年前から  標高1475m の場所での開催となりました。   高原の チャペル は 多目的ホールとしても使えることもあって  この数年は ずっと そこに有る 小さめの グランドピアノ の調律に伺っていました。   しかしながら 今年は 何となく 依頼の際の連絡内容が、 いつもとはちょっと違ったので 「 どうしたのかな!? 」 と思いながら伺うと 『 今回の開場は こちらになります。 』 と エレベータに乗ってのご案内となりました。

いつも フロント で ご挨拶をして チャペルへと向かう時に ちょとしたスペースに置かれてある グランドピアノ の横を通りながら 『 この ピアノ は 古いですし どうも随分と手を入れられていない様子ですが、 とっても好い ピアノ なので チャンスがあったら 何とかちょっとした修繕費を計上して頂いて お時間が頂けると良いのですが・・・ 』 と そんな話を毎年のようにしてきていました。
今回は その 使われなくなってしまっていた グランドピアノ が、置かれている場所を移動されてあって 『 今回は こちらの ピアノ をお願い致します。 』 とのこと。    内心 とっても嬉しかったものの その日の タイムテーブル を考えると 『 時間的に 余裕を持っては伺ってはいますが、 このピアノの様子ですと ギリギリまで お時間を頂く事となりそうです。 』 と お伝えをして 掃除機と 汚れても好いタオルをお借りして 作業に入りました。
【 ディアパソン 】 と言うブランドのピアノですが、 グランドピアノ、 アップライトピアノ 共に 特に古いものは 名器 と言われていて  わざわざ探されて オーバーホールに掛けたものを購入される方々もいらっしゃる ピアノです。
 

【 ディアパソン 】 は 現在では KAWAI にて 製造されていますが、 その設計は 『 図面を引きながら そのピアノの 完成時の音が聞こえてきていた 』 と言われている 大橋幡岩さん によるものです。
大橋幡岩さんは 明治42年に 現在の YAMAHA に 13歳の時に入社します。  KAWAI の 創立者 となる 国産アップライトピアノのアクションを初めて完成させた 河合小市 に師事して  大正10年には それまでは アメリカのピアノをモデルとして作られていた YAMAHA から 河合小市 を筆頭に 海外視察が行われて 各国のピアノ作りを研究し始めるのですが、 その時に知り合った ドイツの 【 ベヒシュタイン 】 の技術主任を 後に YAMAHA は招いて 本格的に ピアノ作り を研究をします。  その際のメンバーに 大橋幡岩さんも参加されていました。    昭和の時代に入り 戦後の YAMAHA は 新たな試みを始めて行きますので 当時の研究も 残ってはいる面もありますが、 趣旨を変化させていき 現在に至っています。 
後に 大橋幡岩さんは 独立をして 【 OHHASHI 】 と言う オリジナルブランドを完成させましたが、 その他にも 多くの ピアノメーカーの設計に関わっています。   その様な設計のピアノ達は 弾いてみると  「 同じメーカーの 他の楽器とは違う見たい!? 」 と 気がつかれる方も在るほどに 独特な響きを奏でさせてくれるピアノ達です。
【 ディアパソン 】 は そもそもは KAWAI 出の製造ではありませんでした。  こだわりを持って 製造をしていくうちに 採算が合わなくなってしまって  製造そのものが、ままならなくなってしまったことによって  KAWAIA が 図面ごと買い取るような形で その製造を現在に引継いでいます。    このグランドピアノも KAWAI で 作られたものですが、 《 Ohhashi.Design. 》 と フレームに刻まれています。   戦前の YAMAHA の ピアノにも 似た音を出す ピアノが、 現在でも 数は減ってしまいましたが 元気に響いています。      

この【 ディアパソン 】 は 以前 簡単に 中を拝見した時には 部品として機能していないものも少なくなかった グランドピアノでしたが、 数年前に 何かのイベントで使った際にでしょうか!? 最低限の 部品交換や作業は されてありました。  しかしながら その後のメンテナンスをしていなかった様子で  兎に角 暴れたい放題に 暴れてしまって  とても 直ぐに 演奏会で使えるような状態ではありませんでした。  
準備を整えて AM 10:00〜 作業を開始したのですが、 先ずは 全体的に弾いて 『 これから目を覚ますんだよ! 』 と サインを送ってから  鍵盤からセットになっている 大きな アクション を下ろして  アクションにも ピアノ本体にも 掃除機を掛けました。  小さなゴミや 埃などを取り除く事だけでも 随分とアクションがスムーズに動くようになりますが、 そこに行き着くまでにも 随分と時間が掛かりました。    基本的に 《 整調 》 の 作業工程の順番は在りますが、 場合によっては 順番を入替えなくては 2度3度と 行程を繰返す必要が出てきてしまうので  優先順位を入替えて 床に下ろしたアクションに対して しゃがみ込んでの作業や  その重たい アクションを本体への出し入れを繰返しながら 調えていきました。    音合わせの 《 調律 》 も 全体が 驚くほどに バラバラな状態になってしまっていて 《 下律 》 と言う 文字や文章の下書きのような 簡単に全体を纏める 調律を先にやって  それから 《 本律 》 に 入りましたが、 そこは 【 ディアパソン 】 の素晴らしい所で  自分から 『 ここだよ! 』 と 指し示してきます。  僅かに 紙一重程の違うポジションで チューニングピンを止めると その後の 音程を調える事に ひずみを生じさせます。    今回は 弦楽器 の 伴奏として使われる用途でしたので 全体的に 『 ちょっと大人しく響いてね! 』 と 言い聞かせるように 調律の作業を進めました。  本当は 「 もっとこんな風に響きたい! 」 とでも言うような気配を感じさせるので  ピアニストの方が 到着して 試弾をして頂いた様子次第では 「 コントロール可能であるのならば もう少し変えてみようか〜? 」 とも思いましたが、 交通渋滞の為に 参加者の乗った チャーターした大型バスや 自家用車の到着が遅れてしまって  残念な事に お目に掛かる事ができないまま イベントのオープニングの時間を迎えてしまったのですが、 合宿中の伴奏者としていらしていた ピアニストの方々に 確認の試弾をして頂くと 『 何だか、面白い楽器ですね! 』『 すごく響くというか、 パワーが有るというか、 個性的ですね! 』 と 驚かれました。   最近作られた 新しいピアノ達とは 全く違うので 『 弾き込むと どんどん表情を変えて 纏まっていきますから 合宿中は 出切るだけ沢山弾いてあげて下さいね。 』 と お願いをして 『 OK 』 を貰いました。  何とか時間までに まとめて 「 【 ディアパソン 】 の個性を引き出せたかな!? 」 と思いながら 作業を終わらせました。
帰宅してからの 雑務を終えてからの ビールの味は 格別でした〜